熱硬化性プラスチックの魅力を活かした暮らしに溶け込むプロダクト
私たちは、熱硬化性プラスチックの圧縮成形を行っている会社です。
熱硬化性プラスチックとは、一度加熱によって硬化し、その後再加熱しても軟化・溶けない性質を持つプラスチックのことで、耐熱性や耐薬品性などの特性があります。その特性を活かして、私たちはブレーカーの部品や、薬品ボトルのキャップ、がいし(電線から電柱や地面に電気が流れるのを防ぐ部品)などの製造を行なっています。
1979年10月、創業者である父が立ち上げました。元々プラスチック関係の仕事に携わっていたのですが、足を骨折して半年ほどお休みした後、復帰するともうすでに職場に自分の席がなかったんだそうです。当時、私が生まれたばかりで、どうしようかと考えた父は、悩んだ末に自分でやってみることを決断したのが、当社の始まりです。
私がこの仕事に関わるようになったのは、私が大学を卒業して就職するタイミングでした。その頃父が体調を崩していて、一部の業務を任されるようになったことをきっかけに本格的に携わるようになりました。ただ、引き継いですぐの頃は仕事も少なく厳しい状況が続いていたんですが、ご縁があってある企業の方と知り合うことができました。出向という形で現場に入れていただき、ものづくりのノウハウを一から教わりました。このときに得た経験や技術が、今の私たちの基礎になっています。その後も信頼関係を築く中で、金型を預けていただき、製品の生産を任せてもらえるようになりました。
私がものづくりをする上で大切にしているのは、「お客様に不良品を絶対渡さないこと」です。ほとんどの作業を自動で行える熱可塑性プラスチックの製造と違い、熱硬化性プラスチックでは金型の分解、製品の取り出し、設置、金具の挿入から成形後のバリ取り(余分な出っ張りを削る)まで、ほとんどの部分を手作業で行なっています。製造する部品のサイズにもよりますが、小さいものだと1日で最大3000個作ります。ずっと同じ部品を作っていると、同じ作業の繰り返しになり、集中力が切れてミスも出やすくなります。なので、午前と午後で作業を分けるなどの工夫をしたり、「小さなことでも確認するのを怠らない、当たり前を見逃さない」を意識して日々の作業を行なっています。そうやって丁寧にものづくりを続けている中で、「綺麗な品物」「なんでこんなツヤツヤなん!」とお客様から言ってもらえると職人冥利につきますね。
改めて熱硬化性プラスチックについて紹介したいんですが、これと反対にあるのが、ペットボトルや食品容器など身近な日用品に使われている熱可塑性(ねつかそせい)プラスチックです。この2つはそれぞれ「クッキー」と「チョコレート」に例えるとわかりやすいと思います。熱硬化性は、クッキーのように一度固まるともう一度加熱しても形が変わらず、熱可塑性は、チョコレートのように一度固まっても熱を加えるとまた形を変えることができます。このイメージを持ってもらうと違いがわかりやすいのではないでしょうか。
熱硬化性プラスチックは、耐熱性(一般的に150℃以上の高温でも形状を維持できるものが多く、中には300℃以上にも耐えるものがあります)、耐薬品性、耐水性、絶縁性があり、強度と信頼性が求められる場所での利用に最適といえます。身近なものでいうと、やかんの取手部分や、電気コンセント、灰皿、ブレーカーの部品の一部なんかにも使われています。
製造の依頼があると、仕様書と図面、金型をいただき、仕様書に沿って素材を選び硬化し、出荷するのが基本的な流れです。時には図面だけの場合もあって、その時は金型設計の打ち合わせから携わり、製品の製造を行います。現在では、高齢化や採算の問題から廃業になった同業者もたくさんあります。ずっと続けてきたことで、他社で断られた案件でも「タツミカセイでならできるのでは」とご相談いただくことが増えてきました。「他では無理だった」と聞くと、なんとか形にしようと試行錯誤するのに燃えますね。
硬化の過程でガスが出るんですが、このガスがうまく抜けないと気泡が入ったり、ひび割れが起こったりしてしまいます。なので、ガス抜きのタイミングや加圧の調整は、品質を左右する重要なポイントです。弊社には、37トンから100トンまでの4種類のプレス機があり、使用する機械は樹脂の種類や製品サイズに応じて使い分けています。製品ごとに異なる素材・サイズ・形状に合わせて、温度や圧縮時間を少しずつ調整し、最適な条件を探っていく。その繊細な調整こそが、私たちの腕の見せ所です。
・熱硬化性プラスチック
(具体例)
・ブレーカー部品
・がいし(電線から電柱や地面に電気が流れるのを防ぐ部品)
・軸受の玉(機械の部品などがスムーズに回転したり動いたりするために使われる部品)
・耐薬品ボトルキャップ
・防爆スイッチ接点(爆発性ガスや粉塵などの危険な雰囲気がある場所で使用されるスイッチ)
私のモットーは、「ライバルはさっきの自分」です。誰かと比べるのではなく、常に過去の自分より成長していたいと思っています。日々の作業でも、「どうしたらもっと効率よくできるか?」を常に意識して取り組んでいます。そう考えるようになったきっかけは、高校生のときのアルバイトで「進歩がない」と言われたことでした。正直ショックでしたが、だからこそそれが自分の原動力になったんだと思います。
そうした経験があったから、新しいことへの挑戦として今回のプロジェクトに参加することを決めました。現在私たちが製造している部品は、機械の内部で使われていたり、私たちでさえ用途を知らされていないものも多く、一般の方の目に触れる機会はほとんどありません。だからこそ今回は、「もっと身近に、みんなの目に触れるような、日常的に使えるような」自社のオリジナル製品をクリエイターの方と一緒に作りたいと思っています。
熱硬化性プラスチックって、今の使われ方だけじゃなく、まだまだ面白い可能性を秘めている素材だと思うんです。一度、成形したら形が変わらない強度や耐熱性などの熱硬化性の強みに、クリエイターの方ならではの新しい視点を掛け合わせれば、これまでにない付加価値を作れるのではとワクワクしています。
そして、もう一つの私の挑戦は、素材に「色」をつけることです。まだ実際に試したことはありませんが、理論上、熱硬化性プラスチック、特にメラミン樹脂、ユリア樹脂には、専用の顔料や染料を混ぜることで色を加えることができるはずなんです。単色だけでなく、マーブル模様のような表現も可能なのではないかと考えています。そんな新しい表現の可能性も、クリエイターの方とアイデアを出しあい、一緒に探りながら形にしていけたら嬉しいです。