過去のスタンダードと現代の感性を融合させた常識を覆す縫製加工品
私たちは、レディースアパレル衣料品の縫製加工を行っている会社です。
社内では縫製はほとんど行っておらず、協力工場さんにお願いしています。 私たちは型紙(パターン)をもとにした裁断のほか、縫製後のボタン付けや仕上げのアイロンがけ、検針、納品作業などを行っています。
これまで、百貨店に並ぶ高価格帯の婦人服の生産を中心に手掛けてきました。コロナ禍で婦人服の受注がなくなったことをきっかけに、数年前からは自社ブランドの商品開発・販売にも取り組んでいます。マスクの製造・販売をはじめ、アウトドア向けのベスト、サウナハット、防寒に特化したバラクラバ(注1)などをクラウドファンディング・プラットフォーム「makuake」で展開しています。
このまちで、ものづくりをはじめてもうすぐ90年になります。創業者である祖父が1938年に立ち上げたのが、弊社のはじまりで、創業当初は、女の子用のプリーツスカートの縫製加工を行っていて、今のような高価格帯の婦人服を生産できるようになるまでは、2つの大きな転機がありました。
1つ目の転機は、父が会社に入って間もなく祖父が他界し、28歳という若さでいきなり社長になった時です。その頃、創業当初から作り続けていた女の子用のプリーツスカートが時代の変化とともに売れなくなってきていて、父が「なんとかせな!」という想いで婦人服へと舵を切ったのがはじまりです。当時、日本は高度経済成長を迎え、上質なものを求める声が高まっていた時代で、後押しされるように高級婦人服の製造へとシフトしました。一番多い時には20社の縫製工場を抱え、立て替えた社屋の工事費が3年で返済できるほど順調に売上を伸ばしていました。
父は、「話術に長けていて、人の心をつかむのがとても上手な人」でした。流行にも敏感で、パソコンも普及しはじめた頃から注目し、パソコンを使った生産管理にもいち早く目をつけるなど、常に新しいものに目を向けていました。そして何より、どんな仕事の依頼にも真摯に向き合い、決して断らなかった。その姿勢が信頼を生み、取引先との関係を築いていくうえで、大きな力になっていました。
2つ目の転機は、バブルが崩壊した頃です。縫製業界は大きく落ち込み、周辺の工場は次々に廃業していきました。多くの企業が海外生産に切り替えるなか、私たちはあえて「今まで通りのやり方」を選び、素材から製造まで全て日本製で高品質なものにこだわりました。その姿勢を貫いてきたおかげで、現在では最盛期の10%しかないと言われる日本国内の縫製加工会社の一社として存続することができています。
この仕事をしていてやりがいを感じるのは、「こんなに売れました!」と言っていただけた時はもちろん、展示会用のサンプル制作などでブランドデザイナーさんから「仕上がりが綺麗」「イメージ通りです」と仕上がりを高く評価してもらえた時ですね。日々丁寧に作業してきた甲斐があるなと、嬉しくなります。
私たちの強みは、パンツ、スカート、ワンピース、コートなど、婦人服全般に対応できるところです。
自社に工場は持っていませんが、国内の信頼できる縫製工場とパートナーシップを組むことで、生産体制を整えています。現在は国内の4社の協力工場と一緒にものづくりをしていて、それぞれが専門性の高い技術を持っているので、クオリティの高い製品を安定してお届けできています。工場の規模はさまざまで、ご夫婦ふたりで営まれているところもあれば、10人ほどのスタッフがいる工場もあります。大きなところでは比較的まとまったロットにも対応できるので、サンプル制作などの1点ものから1000点規模まで、幅広い依頼に対応できるのも私たちの強みです。
また、基本的な工程は、できるだけ社内で完結できるようにしています。取引先から型紙(パターン)をいただいたら、自社で裁断と芯地貼りと呼ばれる生地にハリや厚み、形を持たせるための補強材を付ける作業を行い、縫製は提携している工場へ依頼。その後、再び自社でボタンなどのパーツを取り付け、仕上げのアイロンがけ、検品を行ってから出荷します。どの工程も、ひとつひとつ丁寧に手作業で進めていて、裁断ではパーツの大きさに合わせて2種類の機械を使い分けたり、芯地貼りでは素材によって温度や圧力を調整したりしています。ほつれ止めの処理や、昔ながらのボイラー式アイロンを使った仕上げ、ブランドネームなどのふだ付けまで、手間を惜しまず丁寧に行っています。さらに、シャツなどの高価格帯の服に使うボタンは、1つずつ手で縫い付けています。「根巻き」と呼ばれるボタンの根元をくるくると巻いて固定する作業は機械ではできないので手作業で行います。この一手間があることで、強度が増し、ボタンがしっかりと立って、より高級感のある見た目に仕上がるんです。
このようにすべての工程を手作業で仕上げているからこそ、「ボタンの立ち上がりを綺麗に見せたい」や「素材の風合いを活かしたまま仕上げてほしい」といった細かなご要望にも、柔軟に対応することができています。
・レディースブランドのパンツ・スカート・ワンピース
・自社オリジナル製品
・マスク
・アウトドア向けのベスト
・防寒に特化したバラクラバ
今回のプロジェクトでは、「過去のスタンダードと現代の感性を融合させた常識を覆す」をテーマに、商品開発に取り組みたいと思っています。
たとえば、Dickiesが作業服メーカーとして、現場のプロ向けに提供していた丈夫で機能的な服が、スケボーに適した「動きやすくて、破れにくい」パンツとしてスケーターに重宝されるようになり、本来“現場のプロ向けの服”であるワークウェアが、かっこいい日常着として若者に浸透していきました。シンプルなデザインでどんなトップスにも合わせやすく、「ストリートスタイル」の定番として人気を集めています。
こうした、過去のスタンダードと現代の感性が融合するような商品をつくっていきたいと考えています。
また、PRADAがスーツを“男性の装い”から“自立した女性の自己表現”へと変えたように。Stella McCartneyが「高級ブランド=動物素材」という常識を打ち破り、エコレザーやリサイクル素材で上質な服を仕立てたように。ファッション業界や縫製の現場にある“当たり前”を覆し、そこに新しい価値を生み出したような、そんな商品をめざしたいと思っています。
最近、私が関心を持っているのが、法被(はっぴ)や道着、もんぺなどの和の要素です。関心を持つようになったきっかけは、紅白の弾幕を使った半被づくりの依頼でした。初めて自分の手で半被をつくったときの楽しさが忘れられず、そこから帯や袴、道着など、古き良き日本の文化や技術、和のアイテムに対する関心がどんどん広がっていったんです。
日本らしさを感じられる和のアイテムから発想を膨らませていくのも、面白いのではないかと思っています。